読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

12.oh.9

吸って吐いて、また吸って。

Jnapi Produce 人間風車

感想 舞台

舞台 人間風車 Jnapi produce

 

この記事を読む前に、公式のあらすじに目を通して頂けたらと思います。

千秋楽も近いのでネタバレを考慮せずに語ります。

年齢制限のかかるホラー作品なので、苦手な方は気をつけて下さい。

 

 

 

 

この世にはたくさんのフィクションがある。

 

人を笑わせるフィクション。

人を感動させるフィクション。

人を惑わすフィクション。

 

それらに混じって存在する、

 

フィクションの仮面を被った"ノン"フィクション

 

 

物語はフィクションとノンフィクションの間を行き来する。

状況は違えど同じ童話作家である平川と国尾。

彼らは童話という空想の世界を生み出しながらも、

作品の売れる売れないとは何かという問題や、

生きていくには当然金が必要だという現実に囲まれている。

 

TV局で働く、平川と国尾の友人である小杉。

彼は娯楽番組を制作する一方で、

上司と肉体関係を持ち出世しようとする女性ADの話を聞いたり、

薬物使用の疑いがある芸能人の楽屋を盗撮した映像を

警察に横流しするという相当際どいリアルの中に身を置いている。

 

バラエティやコントの中で笑顔を振りまいている女優、アキラ。

そんな彼女にも勿論、テレビには決して映らない一面がある。

 

しかしたった一人だけ、境界のない世界で生きている者がいる。

それがオサム、通称サム。

彼は、平川が公園で語る童話に誰よりも夢中であり、

物語を聞いたあとは主人公になりきり、

平川が聞かせた通りの調子で、一言一句間違えることなく台詞を繰り返す。

時には家にあるモノを寄せ集めて、それらしい格好で町を駆け回ることもある。

彼は平川の語る物語に夢中になる一方で、

平川の生み出す世界の一部でもあるのだ。

境界のない世界で生きている、と言ったが、

実は彼にも、当たり前だが現実が存在する。

それは、彼が大人だということ。

 

 

公式のあらすじにもあるように、

平川とアキラが出会うことで物語の状況は一変する。

二人が出会うことで生まれたものは恋だけではなかった。

 

 

黄金戦士オロの物語。

ある国に、残忍の王がいた。

王は優勝者の願いを一つ叶えるという条件で百人の戦士を集め、

彼らに生死を賭けた戦いをさせ、それを眺めるのを楽しみとしていた。

銀戦士プラタという青年がいた。

彼は愛する女性の為、ちびっこハウスの子供達の為、

願いを叶えようと戦いに参加した。

しかし、残忍で狡猾な戦士カオスの剣によって彼の願いは叶わなかった。

プラタが死んだ後の大会に、一人の女戦士が現れた。

彼女の名前はオロ。

無駄な殺生はしないと語り、彼女は誰一人殺さぬまま決勝まで進んだ。

オロの最後の相手はカオス。

見事な剣捌きで瞬く間にカオスを追い詰めるオロ。

このままカオスも殺さぬのだろうと誰もが思ったその時、

オロは自らがしないのは"無駄な"殺生だけだと語り、

卑怯な手段の前に命を落とした弟の敵を討つと言い放った。

そう、オロはプラタの姉だったのだ。

しかし、カオスは死ななかった。

オロの剣がカオスの体をわずかに外していたから。

殺されると思ったカオスは腰が抜け、小便を漏らし、晒し者となった。

彼を待っていたのは、死ぬよりも恥ずかしい結末だった。

誰一人殺さなかったオロだが、勝者であることに間違いはない。

王はオロに願いを問うた。

オロは答えた。

王に、一つだけで構わないから、花を育ててほしいと。

そして育てた花が枯れた時に、美しい涙を落としてほしいと。

どんな小さなものでも勝者の願いに変わりはない。

王はそれを聞き入れ、だが去り際に、一言残した。

私が育てる花は枯れないかもしれないぞ、と。

その時は花を枯らさなかった王こそが美しいだろうと、オロは答えた。

 

 

この物語を聞いた子供は泣いた。

よくわからないけど、いつもと違ってすごかったと泣いた。

もしかしたら平川は恋をしたのかもしれない、誰かがそう言った。

 

平川自身、オロの物語は渾身の出来だと感じていた。

そして、国尾に読んでみてほしいと原稿を渡した。

原稿を読み国尾は確信した、これは間違いなく傑作だと。

そして小杉に連絡を入れ、平川の取材をしてほしいと頼んだ。

平川は、国尾に勧められていた児童書の賞に作品を出そうと決心していた。

 

このまま平川は作家として成功するのかと思われたが、現実は違った。

現実は、今まで平川が語ったどんな物語よりも残酷な結果をもたらした。

 

ある日、平川は自身の作品のせいでアキラに振られてしまう。

正直者は損をするから?

半端な学歴は何の役にも立たなかったから?

違う。

彼の物語が、サムを魅了して止まなかったからだ。

サムには知的障害があった。

彼の挙動からそれは容易に知ることが出来た。

しかし彼の障害は先天的なものではなかった。

サムが赤ん坊の頃、まだ自分も小さいというのに

母に憧れて彼を抱き上げた姉の起こした事故によるものだった。

よろけた拍子に姉の腕から投げ出されたサムは、

頭を何度も打ち付けながら階段を転がり落ちた。

ゴンッ、ゴンッ、ゴンッ、と音をたてながら。

ゴンッ、ゴンッ、ゴンッ…

その音は、今もアキラの耳に残っている。

物語の主人公に憧れた弟はカラフルなバケツを被ったり、

金ピカの鎧を真似した格好で町を走り、台詞を語り、

いつまでも年相応に、大人らしく生きるようにならなかった。

それがアキラの、テレビには映らない現実だった。

アキラはその現実が続くことに耐えられなかったのだ。

そして彼女は言った、もうサムと私に関わらないでと。

 

アンデルセンのような悲しい童話でもここで終わっていただろう。

だが、現実の悲劇はまだ終わらない。

 

平川が知らないうちに、オロの物語は絵本となって世に出ていた。

作者の欄には、国尾の名前が。

賞の審査員は平川が盗作をしたのだと判断し、賞への道は絶たれた。

審査員だって勿論、事の真偽を確かめる為に出来る限りのことはしていた。

公園の子供達の話も聞いていた。

しかし子供達は、残酷なまでに正直すぎた。

子供達は、いつもとあまりにも違うオロの物語は、

平川の作品ではないように感じたと話したのだ。

 

童話に、友人に、子供達に、平川は裏切られた。

そんな彼の悲劇を嬉々として映像に収め、取材をする、小杉の姿。

平川は絶望した。

絶望なんていう言葉では足りない程に絶望した。

 

しかし、そんな彼を作家と呼び、お話をしろと言う者がいた。

サムだ。

気味が悪い程によくできた偶然のタイミングで現れたサムは、物語を望んだ。

そんなサムに平川は、残酷な比喩を用いて自分の身に起きた悲劇を語った。

泣き喚き、地べたに這いつくばり、自分は馬鹿だったと全てを悔やんだ。

しかしサムにはそれが分からなかった。サムは物語を望んだ。

 

サムは物語に夢中になり、台詞を覚え、主人公になりきる。

 

平川は作家である、作家には想像力がある。

想像力は狂気ではなく、凶器になった。

 

 

復讐心に駆られた一人の男が稲妻に撃たれ、

焼け爛れた肌の破片を撒き散らしながら彷徨う、

不死身の魔王ヴィルと化す。

 

ヴィルはまずコスギを手にかける。

鉄パイプで殴り殺すだけでは面白くない。

コスギの口に割れたガラス片を含ませ顔を殴打し、

倒れた彼の頭にガラス片の詰まった袋を被せ更に殴る。

一思いに殺しては面白くないので、虫の息になったところで放置する。

 

ヴィルは次に公園の子供達を手にかける。

すぐ側の交番に見つかると厄介なので、

彼の魂は公園を犬のように這いずり回る女に憑依し、

子供の眼球を親指で二、三度撫でた後に頭の奥へ押し込む。

 

ヴィルは今度はクニオを手にかける。

クニオは虫がとても嫌いだった。

黒く光る禍々しい虫を百匹程集めて、彼の口に押し込む。

虫は彼の体の奥を目指し、喉を通り、

最後はこの世で最悪の窒息死を呼ぶ。

 

ヴィルは最後にアキラを手にかける。

椅子に縛り付けた彼女の頭にカッターで切れ目を入れ、

左右の手で髪を引っ張り皮を引き剥がす。

 

 

平川の口から生まれる物語はこの上ない程残酷で、

グロテスクで、痛々しい表現に溢れていた。

それらの言葉は想像力豊かなサムを容赦なく苦しめた。

それでも平川は物語を止めない、サムの中に押し込むように、

染み込ませるように、彼に残酷な物語を押しつける。

 

フィクションとノンフィクションが、曖昧になる。

 

小杉が、子供が、国尾が死んだ。

平川は恐怖した、自分の作品とサムに怯えた。

ついに平川は魔王ヴィルを目撃する、彼に怯えるアキラの姿と共に。

そして平川は物語を話し出す。

ヴィルではなく、サムに向かって。

 

 

昔、あるところに翼の生えた少年ダニーがいました。

しかし村の人達は、ダニーが空を飛んでも全く相手にしません。

ダニーは空が飛べるのをいいことに、沢山のいたずらをしましたから。

村にいても面白くないと思ったダニーは、隣の町に行きました。

空から降り立ったダニーは一人の少女と出会いました。

少女は、翼の生えたダニーを見ても全く驚きませんでした。

彼女は目が見えなかったのです。

こいつぁ面白いと思ったダニーはウサギの糞を詰めたブドウを用意し、

これはこの世にたった一つしかない幸せのブドウだ、

これを食べた者は幸せになる、と話し少女に食べさせてしまいました。

少女は当然病気になり、日に日に弱っていきました。

しかし何も知らない少女は、毎日会いに来るダニーを

優しい人だと思っていました。

彼女はダニーにこんな話をしました。

人間はみんな心に翼が生えていて

死ぬとその翼で天国に行くことができる、と。

そして、幸せのブドウを食べた自分は

きっと天国で幸せになれると信じていました。

やがて少女に死が訪れました。

死ぬ間際、少女はダニーに話しました。

隣の村にいるという翼の生えたイジワルな男の子、

彼の翼が心に生えていたら貴方のように優しくなれたでしょうね、と。

ダニーは泣きました。

雨のように涙を落としながら飛びました。

三日三晩泣いて疲れ果てた彼は、村の塔の上で眠ってしまいました。

目を覚ますと、塔の周りには沢山の人がいました。

赤ちゃんが、恐らく鳥にさらわれて落とされたのでしょう、

塔の一番高い所に引っかかっていたのです。

ダニーは赤ちゃんを助けるべく、飛びました。

だけど三日三晩泣いた彼の体はもうへとへとで、

少し飛んではフラフラし、なかなか赤ちゃんの元へ辿り着けません。

塔の下で見ていた人々はみんなダニーを応援しました。

ダニーはついに赤ちゃんを助けました。

赤ちゃんを助けたあと、ダニーはみんなが見ている前で言いました。

「僕の翼を心に返すから、みんな見ていて」

ダニーの体が塔から落ちていきます。

しかしダニーは羽ばたきません。

ダニーがお願いした通り、みんなは静かにダニーの最期を見届けました。

 

 

平川とアキラが見守る中、サムは言った。

「僕の翼を心に返すから、みんな見ていて」

サムはダニーになった。

羽ばたかないダニーに。

 

魔王ヴィルとなったサムの手によって、殺された者がいた。

しかし、殺される瞬間を見ているのは観客のみ。

人が殺されたことは確かだが、物語が現実になったかは分からない。

情報提供者を殺したことだってある、

息子が死ぬでもしない限り海外に行った妻は帰ってこない、

刑事のそんな独り言は、恐怖に支配された平川には聞こえなかった。

 

あれから20年経った今も、平川は公園にいる。

そして集まった子供達に物語を聞かせる。

20年前と全く同じ物語を。

 

 

作中に人間風車という言葉は出てきません。

では、人間風車とは何なのか。

一つ、また一つと、人の心の闇が風車の羽根のように、

誘惑という風を受けて回っている様なのか。

20年経った今も、昔の作品だけを語り続ける平川そのものなのか。

 

ハッキリ言って、誰も救われないお話です。

アキラの過ちと、その結果であるサム。

アキラは一生償っていくべきだったのかもしれないし、

純粋すぎるサムがそのまま生きていく事自体、

本当は難しかったのかもしれません。

 

国尾は絶対に許されないことをしました。

彼は謝りながらも、平川にこう言いました。

自分にとってオロの物語の原稿は、

一晩だけと言って一億円を預けられたも同然だったと。

童話作家としてそれなりに食えていて、

童話に金を出すのは親であり、

子供ではなく親に受ける童話を書かなければ

童話作家は儲からないという国尾の例えは、

大人にはとても分かりやすいものでした。

 

 

オロの場面は平川がアキラに恋をしたあとに出てきます。

オロの顔はアキラの顔であり、

残忍の王は国尾の顔、カオスは小杉の顔でした。

それまで子供達に聞かせていた物語の登場人物が子供達の顔だったのを思うと、

裏切られる前から平川の心の底、本人も気づいていない部分には

何か明るくないものがあったのかもしれません。

そして恋をすることで、平川は大人になってしまったのでしょう。

 

 

平川、サム、童話の中の人達以外、登場人物の衣装がみんな

モノクロやセピアに近い色で統一されていて、

これは何か意味があるなと思って観ていたのですが、

最後公園にいる平川の服がモノクロになっていたのは衝撃的でした。

色を失った平川が語り出す物語の最初が

「それはまだ、お空が青かった頃のお話」

なのがまた重くて、失われたものの大きさを感じました。

 

 

物語のどこからどこまでが事実なのか分からないように、

何が正しいのか分からないし、何が間違っているのかも分からない。

それがこの舞台の魅力なのだろうと思いました。

観た人の心の中でも、何かが風車のように回っているのかもしれません。

やはり再演される作品には力がありますね。

 

 

 

ここまでお付き合い有り難うございました。

酷い長さです、精進します。

 

パンフレットとセットで出ていたトートが素敵でした。

 

f:id:room12oh9:20160410230543j:plain

 

 

また何かあったら書きます。